1863年創業の石川酒造が蔵を構えるのは、東京西部・福生市。
気鋭の杜氏・前迫晃一氏のもと、地元はもちろん海外でも愛される銘酒「多満自慢」を愛飲家の皆さんにお届けしています。
杜氏とは酒造りの最高責任者。
自らを“発酵マニア”と語る前迫氏のお話をたっぷり伺ってきました。
■菓子職人志望だった少年時代、「発酵」の実験が運命を変えた
― 前迫さんは、いつから酒造りに興味を持ったのですか?
― 実は元々パティシエ志望だったんですよ。親の方針で甘い物をあまり食べさせてもらえなかったので、それなら自分で作ってしまおうと、高校は食品科学科に入りました。そこで知ってしまったんです、発酵という世界を。
― 発酵に魅了されたのはどんなきっかけで?
― 砂糖水と酵母(ドライイースト)使った発酵の実験をしたんですよ。
どこにでもある材料を組み合わせただけなのに、だんだん泡立ってきて45分後には酒に変化したことに、雷に打たれたような衝撃を受けました。
■31歳の若さで杜氏に大抜擢
― それで大学では醸造科を選んだのですね。多満自慢との出会いは?
― 19歳で、石川酒造でアルバイトとして働き始めた時ですね。アルバイトを続けながら大学で醸造を徹底的に学び、卒業後に社員になりました。
― そして実力が認められ、2015年に31歳で杜氏に選ばれたんですね。
― 杜氏は酒造りの一切を取り仕切る重責ですし、正直ひるみましたね。でも若いパワーで石川酒造を更に盛りたてていきたいと受けることにしました。
― 前迫さんが杜氏になって酒の味は変わりましたか?
― 今は、辛口や香りが高い酒が好まれがちですが、あえて「甘口」の酒に変えることにしました。
甘いと言っても、オリゴ糖を多く含むため、優しくて柔らかい甘みです。
― 香りも穏やかなのでどんな食事にも合いそうですね。
― 米の旨味を重視した「食事に寄り添う酒」が私のモットーです。唐揚げやハンバーグ、カレー等どんな家庭料理にも合うので、毎日飲めますよ!
■イチオシは「純米無濾過」、DX推進で障がい者も活躍
― 多満自慢の中で一番好きなお酒は何ですか?
― うちの看板商品「純米無濾過」です。米の旨味と風味のバランスがすごく良くて、値段も手頃。色々な品評会で受賞しています。
― 石川酒造では、障害者の雇用にも力を入れているそうですね。
― DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めているので、プログラミングやデータ管理の仕事の比率が高く、知的・身体障害者の方もたくさん活躍してもらっています。
― 最後に中国の皆さんにメッセージをお願いします。
― 石川酒造は東京都心から近く、海外からの旅行者も来やすいロケーションです。
敷地内には日本的な建物も多く、日本料理やイタリアンなど飲食店も充実しています。
日帰りはもちろん、宿泊施設もあるので1泊するのもお薦めですよ!
【取材を終えて】
日本酒仲間から「めちゃめちゃ気さくで、めちゃめちゃ喋ってくれて、めちゃめちゃお酒造りの情熱がすごい」と聞いていた前迫さん。
本当にその通りの方で、目をキラキラさせながら日本酒と発酵への愛を語ってくれました。
特に印象的だったのが「毎日が楽しい実験のようだ」と話していた時の表情。
「天職」に出会った人はなんていい顔をするんだろう・・・と、ものすごく羨ましい気持ちになりました。
前迫さんは、石川酒造の公式X ( 旧Twitter ) にもちょくちょく出没。
蒸したお米の写真を2枚並べて「どちらが50%吟風で、どちらが70%あきたこまちでしょう?」など、マニア魂を刺激する投稿は必見です!
<中国語版公開日>2024年10月
<記事制作>美酒企画代表取締役 柴田亜矢子