1886年創業という長い歴史を誇る永井酒造。
人口およそ3千人の群馬県川場村から「世界に通用する酒」を発信しています。
6代目・永井則吉社長は新ジャンルに意欲的に挑むことで知られていますが、その1つが熟成酒。1995年から研究を始め、信念と覚悟を持って取り組み続ける熟成酒に対する熱い想いを伺いました。
■熟成に目覚めたきっかけは、衝撃的なビンテージワインとの出会い
― 日本酒は新酒で飲むのが一般的ですが、あえて熟成させようと思ったのは何故ですか?
― 私は永井酒造の次男ですが、日本酒だけでなくワインも嗜んでいました。そんな中、ワインは世界中で飲まれているのに日本酒の市場はあまりに小さく、歯痒い思いをしていたんです。もともと私は大学で建築を学び世界に通用する仕事をしたいと考えていたこともあり、日本酒もワインに負けないぐらい世界に通用する酒にしたいと強く感じていました。
熟成酒に取り組む決め手となったのは、素晴らしいビンテージワインとの出会いでした。繊細で複雑な味わい、奥ゆかしく後から押し寄せる香り、エレガントな余韻。
あまりの衝撃に、私も長期熟成という価値を備えた日本酒を是非造ってみようと、固く心に誓ったんです。
― 周囲から反対はなかったんですか?
― 猛反対されました。熟成酒の研究には時間も資金も必要ですからね。しかし一刻も早く取り掛かりたいと自分の給料を担保にして周りを説得し、数十本から実験を開始しました。
■10年かけて理想的な温度にたどり着き、エレガントな熟成感を実現
― ご苦労も多かったのではないですか?
― 繊細で複雑な味わいを目指したのですが、予想以上に大変でした。熟成させると、何度やっても3年でピークが来てしまうんです。そこで、定点観察を繰り返しながら保管温度を細かく調整。0℃以下で初めてエレガントな熟成感を出すことに成功したのですが、ここまでに10年を要しました。
― そして2013年に商品化したのですね。
― 1本約3万円と一般的な日本酒よりかなり高価格ながら千本ほど売れました。
研究開始から18年。我が子のように大切に育ててきたお酒が受け入れられ、心の底から嬉しかったです。
■200万円の秘蔵熟成酒セットは3週間で完売、着実に愛好者を増やす熟成酒
― 今では他の酒蔵とも協力して熟成酒の普及に尽力されていると聞きました。
― 熟成酒の素晴らしさを世界に発信するために「刻(とき)SAKE協会」を共同で設立し活動しています。
全7社が造ったビンテージ日本酒と、世界No.1ソムリエ・田崎真也氏がそれらをブレンドした特別酒を加えた秘蔵熟成酒セットを販売したところ、200万円と高額ながら3週間で完売しました。
― 熟成酒の価値が認められ始めているのですね!
― 時間の経過でしか生み出せない希少性とポテンシャルは熟成酒だけの魅力です。
永井酒造では、日本酒としては非常に珍しいフレンチオークの新樽を使った「樽熟成」も手がけており、今後も日本酒の新たな価値創造に努めてまいります。
<中国語版公開日>2024年12月
<記事制作>美酒企画代表取締役 柴田亜矢子