日本には1000以上の酒蔵がありますが、泉橋酒造ならではの個性が「栽培醸造蔵」であること。
“酒造りは米作りから”という信念のもと独自の道を切り開く、6代目・橋場友一社長にお話を伺いました。

■米作りに興味のなかった青年が栽培醸造蔵を目指した理由とは

― まずは「栽培醸造蔵」が持つ意味について教えて下さい。

― 栽培醸造蔵とは、“農業から醸造まで行う酒蔵”という意味で命名しました(登録商標第5931100号)。上質な日本酒を醸すには良い酒米が必要不可欠です。我々は、日本酒は単なる飲み物ではなく「農業副産物」として捉えています。

― 米というと農家が作るものというイメージがありますが、橋場社長はもともと米作りに興味があったのですか?

― 私が実家である泉橋酒造に入社したのは1995年でした。もともと実家には食用米の田んぼがあったのですが、米作りには全く関心がなく、学生時代は嫌々手伝っていたのが本音です。

― そんな橋場社長が米作りに本格的に挑戦しようと思ったきっかけは?

ー 実は昔は、自分で育てた米で酒を造ることは法律上とても困難だったんです。でも1995年にその法律の撤廃が決定しました。そこで閃いたのが“消費者を交えて米作りから酒を造ってはどうか”というアイデアでした。東京に程近い神奈川県で田植え体験ができるとあって参加希望者が続出し、新聞でも大きく取り上げられました。

また、自分で栽培した米での酒造りは父(前社長)の悲願だったので、何としても実現したいという闘志も挑戦のきっかけでしたね。

■原料米の9割以上を自社・契約農家で栽培

― 地元農家などと組み、契約栽培も行なっていますよね?

― 自社社員による直接栽培に加え、地元の酒米生産者・農協・農業技術センターと契約栽培も行なっています。酒米の王様「山田錦」「雄町」「神力(しんりき)」、それに神奈川県で誕生した「楽風舞(らくふうまい)」などが主な栽培品種です。

― どのくらいの量の酒米を作っているのですか?

― 自社栽培と契約栽培を合わせ原料米の9割以上を賄っています。農家と共に米作りをするからこそ、土壌の特性やそこから生まれる米の特徴を知り尽くしているのが、我々の大きな強みです。

■トンボが飛び交う田んぼで、持続可能な米作りを

― 泉橋酒造と言えば「トンボ」ですが、このマークに込めた想いを聞かせて下さい。

― 赤トンボは、田んぼで生まれ育つ生き物です。つまり、赤トンボがたくさん飛んでいるのは健康な田んぼである証拠。そのような田んぼで持続可能な農業を行なっていきたいと、減農薬・無農薬に取り組んでいます。

― 可愛いだけでなく、自然環境への配慮を意味しているのですね。

― ちなみにトンボは後退はせずに常に前へ飛ぶことから、日本では「勝ち虫」とも呼ばれています。そのため、古くから縁起の良い昆虫として愛されているんですよ。

― 安全と美味しさ、そして開運も備えたお酒とは最高ですね!

ー 泉橋酒造では、海老名駅近くで飲食店「サケとアテ 蔵元佳肴 いづみ橋」も運営しており、ほとんど全種類のお酒を提供しています。日本の方はもちろん、中国の皆さんも来日の際には是非飲み比べに来て欲しいですね。お気に入りがきっと見つかりますよ!

【取材を終えて】

泉橋酒造は、小田急線・相鉄線・JR線の海老名駅より徒歩20~25分。
都心にも近い立地ながら、神奈川県内有数の穀倉地帯である海老名耕地(えびなごうち)に”栽培醸造蔵”を構えています。

橋場社長は、東日本大震災で被災した子供たちへの支援を目的として2011年から始まった日本酒イベント「美酒早慶戦」の創設にも尽力。また、”医療スタッフ”として、重い病気を抱える子どもたちの心を癒し勇気を与える「ファシリティドッグ」への応援酒も手がけるなど、チャリティー活動にも熱心に取り組んでいます。

造り手としてはもちろん、人としても尊敬してやまない橋場社長。今後もさらなるご活躍が楽しみです!

<中国語版公開日>2023年3月
<記事制作>美酒企画代表取締役 柴田亜矢子