高橋商店は1717年創業と、九州屈指の老舗。どんな料理とも一緒に楽しめる「繁桝」は、地元の人達の暮らしを支え、活力と癒しを与えています。
現在、会社を率いる中川拓也社長は19代目。伝統を守りつつ果敢に挑戦を続ける中川社長にお話を伺いました。
■元“トンネル設計師”という異色の経歴
― 中川社長は異業種から酒造の世界に飛び込んだそうですね。
― 実は私は大学卒業後15年間、土木業界で働いていたんです。専門は、地下鉄などを通すためのシールドトンネルの建設設計でした。
― 中川社長は異業種から酒造の世界に飛び込んだそうですね。
― 実は私は大学卒業後15年間、土木業界で働いていたんです。専門は、地下鉄などを通すためのシールドトンネルの建設設計でした。
― それは驚きです!どういうきっかけで転身したのですか?
― 高橋商店の先代社長の娘と結婚したことです。住んだことのない土地で、全く未経験の仕事をするというのは非常に勇気のいることでした。けれど「自然と真剣に向き合いながら造る」というのは土木も酒造りも一緒ですし、昔の経験を今の仕事に生かせていると思います。
■酒造りの要「麹造り」を極めたい
― 確かに酒造りは“微生物”の力を借りて行いますし、自然が相手と言えますね。
― 酒造りで最も重要な工程の一つが、麹造りです。麹とは「麹菌」という微生物を蒸し米に生やしたものですが、麹が良くないと美味しい酒にならないので、熟練の技と細心の注意が必要なんですよ。
― 麹室(麹造り専用の部屋)を2018年に新設したと聞きました。
― 高橋商店の強みである麹造りを極めようと、思い切って約130平方メートルという国内最大規模の麹室を作ったんです。今の主流であるステンレス製ではなく、あえて昔ながらの“木製”の麹室にこだわりました。
― 木製だと、綺麗に保つための手入れが大変そうですね?
ー 木には適度に湿気を吸ってくれるという、ステンレスにはない利点があります。また、日頃から清掃など手入れに気を使うことで、職人としての感性も磨かれていくと考えたんです。
― なるほど、職人の育成という意味合いもあるんですね。
「繁桝」の品質や価値を継承するためには、効率だけを追っていてはダメだと思っています。繊細な感覚や判断力を備え、「手造り」ができる人間をこれからも育てていきたいですね。
■JALファーストクラスも認めた「実力」と「安全性」で、日本酒文化を世界に
― 海外展開にも注力されていると聞いています。
ー 高橋商店の酒は約9割が地元消費なのですが、「大吟醸 箱入娘」が2003年に日本航空(JAL)国際線ファーストクラスで採用されたことで、広く国内外に名前が知れ渡るようになりました。
近年では、世界市場も視野に入れられる体制を強化しています。2022年には、国際基準の食品安全規格「JFS-C規格」を日本酒メーカーとして初めて取得しました。
― 国際規格で安全性をPRできれば、輸出もさらに伸びそうですね!
ー 日本酒は外国での人気が年々高まっており、我々も現在アジア圏への輸出に取り組んでいます。中国では広州を中心に日本料理店等で提供しており、日本酒文化を一人でも多くの方々に体感してもらえれば嬉しいです。
【取材を終えて】
代々蔵元を務めてきた高橋家の人ではなく、娘婿として酒の世界に飛び込んだ中川社長。
高橋商店の強みであり原点である「麹づくり」に立ち返り、未来へ向け新風を送り続けています。
高橋商店は2023年、泡のイノベーションに取り組む awa酒協会 にも加入。世界中の人が繁桝の極上スパークリング日本酒を片手に、笑顔で乾杯をしている姿が今から目に浮かびます。
<中国語版公開日>2023年4月
<記事制作>美酒企画代表取締役 柴田亜矢子