滝澤酒造の6代目、「タッキー」こと滝澤英之社長にお会いしてきました!
1863年創業と長い歴史を持つ企業の後継者としての覚悟や想いを語っていただきます。

■実は、学生時代は酒造りに興味が持てなかった

― 家業を継ごうと決意したのはいつですか?

― 私は長男なので、将来は継がなければならないだろうと、子供の頃から思ってはいました。でも本音を言えばあまり関心はなく、醸造とは全く関係ない早稲田大学に進み歴史を専攻塾講師のアルバイトに全力投球していました。 酒造りに興味を持つ契機となったのが、漫画『夏子の酒』(1990年前後に連載されTVドラマ化もされた人気作)です。

この本の主人公は、造り酒屋の家に生まれた若い女性。幻の酒米を復活させ、日本一の酒を造る夢に向かい努力する姿に、大いに感銘を受けました。

― 大学を卒業して、すぐに滝澤酒造に入社したのですか?

― 卒業後は3年間、東京の石川酒造で修行させてもらいました。石川酒造は、酒造会社の後継者を積極的に受け入れており、ここで営業や酒造り、成分分析など、幅広い仕事を覚えることができました。
また、自分と同世代の後継者たちと知り合ったのもこの頃。同じ境遇にあることから意気投合し、友情は今でも続いています。

■本格的ロゼタイプのスパークリング日本酒は、世界初!

― 滝澤社長は、特に「スパークリング日本酒」に注力していますよね。挑戦しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

― きっかけは、20年近く前に、仕込んで10日目のもろみ(酒になる前の、発酵中の液体)の美味しさに気づいたことでした。
でも、まずは一般的な酒の造り方を習得することが先決。実力を蓄え、2007年に杜氏(酒造りの総責任者)になってから、スパークリング日本酒への挑戦を開始しました。
しかし当初は、ガス圧の不安定さもあって取引先からの苦情も多く、苦労の連続。改良を重ね、シャンパン製法を応用し、瓶内二次発酵による透明なスパークリング純米酒「菊泉 ひとすじ」を完成させることができました。

― その後に誕生した「菊泉 ひとすじ ロゼ」は、これまでにない美しいピンク色が特徴的ですよね。この色はどうやって出すのですか?

― ピンク色を出す鍵は、赤色酵母(酵母とはアルコール発酵を司る微生物)です。綺麗な発色が魅力なのですが、発酵力が弱いという特徴もある酵母です。そのため、添加の時期や道具など様々な工夫を重ね、ようやく世界初の本格的なロゼタイプのスパークリング日本酒を完成できました。

■イチゴのような甘美な味わいを、中国の皆さんにも体験して欲しい

― 「ひとすじ ロゼ」のイチゴを思わせる香りと甘さは、私も大好きです。どんな料理と合わせるのがお薦めですか?

― 洋食、特に肉料理の相性は抜群です。フランスのトップソムリエは、濃い目のソースをかけたジビエとのペアリングを薦めていますよ。

― ありがとうございます!では最後に、中国の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

― ぜひ一度、滝澤酒造を訪れて欲しいですね。歴史や雰囲気を肌で感じながら、繊細な泡が立ち上る美酒を実際に味わってもらえれば、最高に嬉しいです。

【取材を終えて】

さわやかな笑顔で女性ファンも多い滝澤英之社長。実は、「クイーン」のフレディ・マーキュリーのコスプレをしての完コピが特技など(フランス・パリのバーでも披露したそうです!)、お茶目な面も持ち合わせているのが、さらにファン心をくすぐります。

この日お話を伺いながら、内に秘めた情熱とたゆまぬ探求心に触れ、心が強く揺さぶられました。
学生時代の滝澤社長を酒造りへと駆り立てた漫画『夏子の酒』は実は読んでいなかったため、この直後に全巻を購入。
日本酒の奥深さや酒造りの難しさはもちろん、農業に関する問題についても学べる、胸アツな良書でした。

<中国語版公開日>2022年7月
<記事制作>美酒企画代表取締役 柴田亜矢子